トップまつたに位牌職人シリーズ part3(研磨) 「高価な位牌、そうでない位牌 全てに全力を注ぐ」

まつたに位牌職人シリーズ part3(研磨) 「高価な位牌、そうでない位牌 全てに全力を注ぐ」

高価な位牌も、そうではない位牌も、大きい位牌も、小さい位牌も、全力で作る。ただ、それだけです。

syokunin1入社からこれまでについて教えてください。

私は元々、モノ作りに興味があり、地元の企業である「まつたに」に入社しました。最初は木地彫刻を担当し、その後、研磨の作業担当になりました。そして間もなく、新工場が建ちました。そこは札(お位牌の戒名を記す部分)の研磨専用工場で、私は20代前半でそこの班長になりました。今では笑い話ですが、まだ右も左も分からない私にはとてもプレッシャーで、初めはご辞退をしたのですが、会社からの辞令でもあり、不安ではありながらも班長を引き受けました。

これまでで印象的だった出来事を教えてください。

班長として行った仕事で印象深かったことは、「水研ぎ」という工程を全製品に取り入れ、良品率を格段に上げたことです。弊社の札は、吉野山の檜を使用しています。まず檜を加工し、胡粉下地を塗装します。その上に中塗り作業を複数繰り返し、やっと本塗り仕上げを行います。各塗装前で重要になるのが、研磨作業です。この作業が不十分だと、弊社の鏡のような表面仕上がりは現れません。当時、札の不良率はとても高いもので、なかなか良品が上がらず、非効率な工程でした。私は、そんな中、「水研ぎ」という手法があることを知りました。胡粉下地を塗装後、その面を滑らかにする作業を水研ぎといいます。胡粉は水で溶けますので、胡粉下地後の札表面の胡粉を水につけた砥石と木べらで滑らかにします。これは素早く、そして正確に行うことが求められます。実はこの水研ぎ、当時は一部の商品のみの作業でした。しかし、よくよく調べながら実験していると、これをすることで良品率を上げることができることが分かってきました。そこで、私は工場長に水研ぎ工程を取り入れてもらうよう直談判しましたが、若い私の意見は初めは聞き入れてもらえませんでした。それでも根気強くアプローチし続けた結果、工場長の了承をいただくことができました。私は早速、全ての札に水研ぎの工程を追加しました。それから間もなく、良品率が格段と上がりました。大成功でしたね。

syokuinin2仕事上で心掛けていることはありますか。

心掛けていることは良品を作ることです。私の座右の銘は「毎日、勉強。毎日、努力。」です。我々の仕事は、毎日同じことをします。習いたての仕事なら、一生懸命、吸収しようとしますが、慣れてきたら、そのモチベーションを維持することは困難な時もあります。しかし、そこで腐るのでなく、この作業をさらに効率よく、正確に行うにはどうすればいいか、それを常に考えています。うちのメンバーはその辺は自慢ですよ。だって、みんな良い品物を作ることを常に考えています。誰一人、「さぼってやろう」「適当にやればいい」なんて人はいません。みんな必死で位牌を作っています。そうでないとお客様も納得しないですよね。我々が作っている位牌、これはモノづくりの中でも非常に特殊です。位牌を前にし、大切な人を想って泣く人もいるでしょう。毎日、語り掛ける人もいるでしょう。最近思うのが、私たちは位牌をつくっているのではなく、こういった形にできない思いを作っているのではないかと。ではなおさら手抜きはできないですよね。位牌には高価な位牌から、そうでない位牌まで数多くあります。高価な位牌を求める人は想いが強くて、安価な位牌を求める人がご先祖様を想っていないかというと、私はそうではないと思います。お客様にはそれぞれの事情があります。それならば、私たちができるのはただ一つしかないではないですか。高価な位牌も、そうではない位牌も、大きい位牌も、小さい位牌も、全力で作る。ただ、それだけです。

若い人たちへメッセージをお願いします。

昔、私は結構とがってました。仕事の段取りばかりを気にして、人の気持ちを考えていませんでした。人の発言は言った方は覚えてなくても、言われた方は結構覚えているものです。誰かが休んだら、仕事の予定が狂ってしまうのでイライラしていました。今考えると、班長という座のプレッシャーを感じていたんだと思います。余裕がなく、心が未熟でした。それから徐々に成長してきたと思います。思い返すと、周りのみんなに育てられてきたと思います。今は周りのメンバーに大枠の指示だけ出します。すると、メンバーがそれを達成させるためにどうすればいいか考えてくれます。そんな日々で、メンバーから学ぶことが最近はよくあります。こうやって人は成長していくのですかね。

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