トップまつたに位牌職人シリーズ part4(研磨) 「よっしゃ、私がちゃんと、いい位牌に仕上げたるで。」

まつたに位牌職人シリーズ part4(研磨) 「よっしゃ、私がちゃんと、いい位牌に仕上げたるで。」

人はいつ死に直面するかはわかりません。そして残された人は本当に悲しい気持ちになります。そんな心に、少しでも寄り添えることができるように良い位牌を作り続けていく。そんな思いで、今日も製作に励んでいます。

IMG_5399入社からこれまでについて教えてください。

私は学校卒業後、釣り竿製作に携わっていました。その後、30代で「まつたに」に入社しました。知り合いが勤めており、その紹介です。最初は金箔押しを担当していました。最初の印象は、「こんな難しい仕事、私には向いていない!」というものでした。丸三重という製品の金箔押しだったのですが、金箔はとても薄くてその扱いが難しく、金箔を接着させる漆の加減も本当に難しかったです。当時は毎晩、毎晩、夢にまで出てきたほどです。それから徐々に技術を高め、札黒という金箔を沢山使用する製品までできるようになりました。その後、金粉担当に異動しました。それからしばらくして、「まつたに」の品質向上のための改革が始まりました。当時、位牌業界は海外製が市場に多く出始めたころで、現社長が「まつたには他社とは一線を画し、さらに高品質なものを目指していく!」と宣言しました。その改革のため、「まつたに」の高品質の土台である研磨工程の改革を協力してほしいと、社長からの辞令がありました。それまで、金箔、金粉を扱っていたので、全く畑違いの研磨は最初抵抗がありました。よくよく伺うと、私の中身を評価して選んでいただいたようで、快くお受けすることができました。

研磨作業の内容と大変な所を教えてください。

研磨作業というのは、ペーパーで下地を研磨するのが主な作業です。当時の研磨技術は、今のものよりも劣るものでした。それは最終の仕上がりを見れば一目瞭然です。いい研磨をしていれば、仕上がりは鏡のような美しい仕上がりになります。その逆は、ボコボコしてどこか安っぽい雰囲気に仕上がります。研磨に求められる技術として、部品を見たとき、下地の塗り加減、乾き加減、塗り盛り、それらを一瞬で把握しなければなりません。その上で、適切なペーパーを選択し、丁度いい力加減で研磨していくのです。新人はこれを判断することが困難です。この辺が、職人の勘というものですかね。お客様には、私たち研磨の作業の苦労が直接伝わりづらいところがあります。でも、一度ご覧いただければ、綺麗と言ってもらえる自信はあります。

IMG_5397研磨のメンバーの雰囲気はどうですか?

うちの職場は全員女性で、とてもアットホームな部署です。年齢は高校卒業したばかりの者もいれば、60歳以上のベテランの者まで幅広く所属し、みんな家族のような存在です。私は各メンバーの誕生日にはケーキを用意してお祝いします。私には息子しかいないので、みんな私の娘みたいなものです。いつからやりだしたかは覚えていません。でも、私が前の上司に家族の様に可愛がってもらいました。だから私も自分のメンバーにはそういう風にしてあげたいと思ったのが、きっかけです。そんなことを続けていると以前、私の誕生日の時に、メンバーからサプライズで一人では食べきれないくらい大きなケーキを用意してくれたことがあり、あまりの嬉しさに号泣してしまいました。

位牌製作に携わるにあたってどんな思いがありますか?

今だから言えることですが、私は入社当初、位牌が近寄りがたい存在でした。小さいときから位牌は家にありましたが、触ってはいけないと教えられていたからかもしれません。でも、よくよく知っていくと、亡くなった方をお祀りするとても大事なものという認識に変わっていきました。金箔を担当していたある日、とても小さな位牌が私に回ってきました。亡くなった年齢を見ると、非常に幼いことに気づきました。それを見ると本当にたまらない気持ちになりました。「よっしゃ、私がちゃんと、いい位牌に仕上げたるで。」私はそう思って細部にまで心を込めて、製作に臨みました。人はいつ死に直面するかはわかりません。そして残された人は本当に悲しい気持ちになります。そんな心に、少しでも寄り添えることができるように良い位牌を作り続けていく。そんな思いで、今日も製作に励んでいます。

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